今回は毛色を変えてエンタメ系を。
心打たれた映画やアニメを紹介します。
今回は大友克洋監督の「MEMORIES」。この映画は3部作で、それぞれ別ストーリーですが、1部目の 彼女の思い出について語ろうと思います。
感想を書く都合上ネタバレは含みます。
映画紹介
この映画は2092年の宇宙を舞台にした、SFサスペンスです。

宇宙を航行していた民間の資源探査船が、宇宙深部から遭難SOSをキャッチ。
発信源に向かうも、船員たちに身に数々の不気味な出来事が起きる。
どうやらこれは普通のSOSではなく、そこには想像を超える事が待っていた ー
ということろでしょうか。詳細のあらすじは他を参照下さればと思います。
映像美に魅せられる
このアニメ映画の魅力は何といってもその映像美。
アニメーションはセル画ですが、CGにありがちな作り物感もなく、リアルな描写が目を驚かせてくれます。
特にエヴァの館の描写は、美術館を巡っているような感覚でした。
セル画だからこそ目も疲れずに映像を楽しめたのかもしれません。
さらに宇宙の辺境に浮かぶエヴァの館の星の「不気味」や「神秘性」が、アニメーションやBGMでも表現されているのも作品の高度さを感じます。
加えて、星への潜入シーンではプッチーニの張著婦人のオペラが流れながらシーンが進みます。
このシーンではまだ何もストーリーを理解していないのに、エヴァが過去の思い出に浸っていたノスタルジアを感じさせる映像とサウンドの力がありました。
作られて30年近く経っている作品ですが、今見ても新鮮でした。
ストーリー抜きに映像とサウンドだけでも、感性に強く訴えて来るものを感じる作品でした。
「人の幸福は何か」を問いかけるストーリー
では、さっそく作品内容の考察をしてみます。
大成功をおさめても、本人は幸福になれなかった
この映画を見ると、人間の幸福は何かを考えさせられます。
主人公の歌手は、国際大会の賞を総なめしたオペラ歌手。
そんな時に同業の夫と結婚し、幸せの絶頂の時期を過ごしました。
しかし、彼女は喉の不調によりかつてのパフォーマンスが出来なくなり、世間からもバッシングを受けてしまいます。
さらにその後、夫とも死別しています。
(原因は不明だが、夫の不貞がきっかけで自身が殺害に関与したよう)
自分の社会的成功が揺らいだ時に、彼女は心のよりどころを愛に求めた。
しかし、その愛も終わってしまったのです。
そして晩年まで、宇宙の辺境で孤独に”彼女の思い出”に浸る日々を送ります。
しかしその間も寂しく、新しい”愛”を求めて、SOSを出し続けるのです。
作品が作られた時代にも注目 ~資本主義的な成功の限界を~
この映画が作成された1995年は、共産主義・社会主義が衰退した時代。
ソ連が崩壊し、中国も経済は市場が開放されていました。
特に欧米や日本では、より原理的な新自由主義が台頭してきた時代でもあります。
作中のエヴァは、オペラ歌手として大成功し、世紀の歌姫ともいわれました。
まさに資本主義的な成功を勝ち取って得る幸福の象徴な気がします。
しかし、成功を極めても彼女は幸福になれなかった。
だからこそ、
成功を追い求める資本主義の果てに、人類は幸せになれるのか?
を問うメッセージが作品には込められているのかもしれません。
「幸せ」を仮想現実に求める時代が来ても、限界がある
成功で幸福が得られなかった場合にどうするか?
作中のエヴァのように、仮想現実の世界に逃げ込み、自分の心が満たす時代が来る事も示唆していると感じます。
しかし虚構の世界に逃げ込んでも、現実は変わりません。
老い続ける体、叶わなかった愛、失われた成功…
作中のエヴァも、自分が用意した仮想現実の世界では寂しいため、宇宙にSOSを発し続けて、新たな出会いを求めていました。
そんなエヴァに対し、ハインツは「思い出は逃げ込む場所じゃない」と、現実を直視するよう言っています。
幸せを現実に求めても限界がある
現実の中で生き、現実の中に幸福を求める。というのが最も身近な幸福論だと思います。
例えば、当たり前の暮らしや健康、そして家族との団らんです。
より具体的には、資本主義社会で労働者として生きながら、家と家族を持ち慎ましく生きていく。
成功を追い求める生き方とは異なります。
作中でもハインツには家族があり、幸せそうな生活が描かれていました。
だがそういう現実にも行き詰まりはあるのです。
生涯、家庭円満である保証はないし、事故や災害に巻き込まれる可能性もある。
作中でもハインツがエヴァに見せられた幻想に、大事な娘が事故死する描写を入れて本人を追い詰めるシーンがありました。
「生涯的な幸せ」の方法はまだ存在しない。どう生きるかを問いている。
誰もが幸せが続くことを願っています。
しかし永続的な幸せは、理想を追い求めた先にも、現実の中にも無いもの。
テクノロジーが発展して、リアルな仮想現実ができるようになっても、現実には叶わないかもしれない。
技術が進んでも人間の心は進化しません。
人が感じる孤独感を完全に乗り越えることは永遠の課題なのでしょう。
だから、
人間はまだ幸福に対する答えを持っていない。というのが作品の最終的なメッセージかもしれません。
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